一緒に食事をシてあげる

  
 夜中の一時に突然ケイタイがなりました。
 私はまぁ普通に起きていたわけで、ケイタイを見ると、ジャニヲタの二十歳の女の子からでした。
 この女性は、まぁ男にちやほやされそうな感じのタイプで、まぁそこそこ可愛いルックスと、人に合わせるノリの良さを持っていて、まぁまぁの女子力を持っている。
 一年ぐらい前まではよく食事や遊びに行ったりする仲でした。もちろん交際はしていませんが。していませんが。していませんが。シていませんが。
 ところがここんところ、というか、彼女が一年ほど前に職場を変わってからは、月に一度か二度のメールのやり取りをする他は、遊びに行ったりするのはもちろん、電話で話をすることすらありませんでした。
 なので、えらいこと久しぶりの電話が、しかも夜中にいきなりなので、なんじゃらほいと思いながらケイタイを出ました。
  
 「ねー、久しぶり。あのさー、悪いんだけどさ、終電がなくなっちゃってさ、今、○○駅にいるんだけど、タクシーも捕まらないのね。家まで遠いしさ、かなり酔ってて歩いて帰れないしさ、ごめんなんだけど、迎えに来てくれないかな」と言うわけだ。
 今彼女のいる駅は、私の家の近くの駅からは二駅隣。彼女の家は、反対側に二駅隣。確かに冬の夜中に四駅分を酔った女性が歩くというのは不可能だ。
 しかし、この一年ぐらいはメールのやり取りだけで、久しぶりに電話をしてきたと思ったら、夜中に迎えに来て、という内容では、素直に「はいそうですか」とは思えないわけです。
 だけれども、一年前に良く遊びに行っていた頃は、友達の女の子が酔い潰れて迎えに来て欲しいと電話があったときに、申し訳なさそうに謝るので、「気にしないで。他に手段とかなかったら、迎えに行くから電話するといいよ」と言った記憶も残っていた。
 でも釈然としないので「親とか友達とか他に誰かいないの?」と聞いたら、「瀧澤さんしか頼める人がいないの」とか困ってる風に言うわけですよ。
 それでもやっぱり釈然としないわけですが、以前に行くと言っちゃってるわけだし、それに、なによりも、二十歳のそこそこ可愛い子がさ、夜中に酔っ払って、遠距離を歩こうとしちゃってさ、もしそれで襲われたりしたらさ、無茶苦茶寝覚めが悪い。どう考えても、何か遭ったときの後悔の方がデカいわけですよ。
 これは不本意でもしゃーない。行こうか、と。行かないよりは行ったほうがいい。
 車で、今いる駅まで五分ほど。彼女の家まで送って十分ほど。そこから自分の家まで五分ほど。ロスタイムを含めても三十分程度のことで、寝覚めの悪さの心配がないならば、行くしかないでしょう。
 「まぁ、じゃぁ、行くから、駅で待ってて。近くに着いたら電話する」と言って、車を出しました。
  
 ところが、駅についても見当たらない。ケイタイにかけてもいつまでもコールしているだけで出ない。
 私は車を降りて探したけれども、見つからない。ケイタイは呼べども出ない。
 車で周辺を探し、もう一度車を降りて探しても見つからない。ずっとケイタイで呼び続けて探しながら二十分。姿も見えず、ケイタイにも出ません。寝覚めが悪いから帰るわけにもいきません。
 これは何かがあったんじゃないかと心配になり、見つかるまで探すしかないかと、もっと広範囲で探すか、と思っていると、ようやくケイタイに出ました。やっと出たかと思ったら、「今、家」とか抜かすわけです。「今、家に着いた」
 「あの後、なんとかタクシーが拾えたから、それで帰った。本当に来てくれたの? ゴッメーン」とか言ってるわけだ。
 情けないことに、私はそのとき、素直に無事で良かったことに安心するほうが勝って、そんなに腹が立たなかったのですよ。
 「とりあえず無事なら、まぁ何でも良いや」と言うと、まぁ向こうは酔っ払いながら平謝りで「この埋め合わせは必ずするから」とか言ってる。
 そんなんね、男としては反射的に「やらせてくれるのか?」なんて頭には浮かぶわけだけど、言わないし、私はやらないわけだけど、こっちは「はいはい、期待してる」とか返事をして、向こうも「今度ご馳走するね。ごめんね」とか言って、私も「とにかく無事で何よりだ、それじゃぁ」とか言って、帰ったわけです。
 家に帰ると、一時三十分ちょっと過ぎ。まぁ、ロスタイムが当初の予定よりもちょっと長かっただけだけれども、疲れはしっかり多かった。
  
 で、翌日、昼に彼女から電話がありまして、「あの、ケイタイの着信が何度も入ってるんですが、何かあったんですか? しかも夜中に」と。
 「いや、アンタだろ」と。「全く記憶にないのか?」と。
 「すみません。生まれてはじめて酔いつぶれて、全く記憶がないんです」と。
 で、「怖いんですけど、どういうことだったんでしょう?」と聞くから、説明したわけですよ。夜中に電話があって迎えにいったらいなかった、心配して探したら、家に帰ってた、と。
 そしたらまた平謝りが始まって、最後に「この埋め合わせは必ずするから」と、また言うわけですわ。
 で、また「はいはい、期待してるよ」と応えたわけです。
 そしたら「今度、食事でも行きましょう」と。
 おい、ちょっと待て。
 昨日は「ご馳走する」だったじゃないか。その「食事に行きましょう」は、お前のおごりなのか、それとも「食事に付き合ってあげるよ」というのとどっちだ? とか、思うわけですよ。言わないけど。
 そっちのおごりならまだしも、こっちのおごりや割り勘でなら別に行かなくていいよ。とか思ってしまうわけですよ。言わないけど。
 いやね、別に、おごるお金が勿体無いという話ではなくて、ですね、そこはちょっと違うんですよ。
 若い女の子はね、「食事に付き合う」ということだけで、なんか、恩に着せられるとか思ってるんじゃないだろうな、なんて思ってしまうわけですよ。
 いやね、迎えに行ってすっぽかされたことを恩に着せようということでもなくてね、そんなことは些細なことかもしれないし、実際に些細なことなんだけれども、「二十歳でそこそこ可愛い私と食事に一緒に行ける、というのが嬉しいでしょ?」とか思ってるのかな? それとも、支払うつもりもあるのかな? なんて思いながらね、うん。
 食事に付き合ってあげること、というのを、埋め合わせと言うか、価値として考えているとするならば、納得のいかない話だなぁ、とか思っていたわけです。
  
 まぁ、相手にもよるんですけどね。情けないことに。ちゃんと恩義に感じるから一緒に食事に行きたいとか、そういう人もいますけどね。ああ、いますよ。そう、そこのアナタだ。「私か?」と思ってるアナタですよ。そう、今読んでるアナタだよ。うん。
  
 まぁ、考えてみれば、一年ほど前までは、そのジャニヲタの子と普通に遊びにも食事にも行っていたわけで、今更遊びに行くのを恩義にすることもなかろうかと、今思えばおごるつもりがあったんだろうなぁ、とか思うわけなんですがね。
 なんかね、童貞の悲しい性なのか、女性のそういう姿勢について、過敏に反応してしまうんですよね。特に夜中に「足」として呼ばれて釈然としていなかったし。
  
 ちなみにガラモンは言いました。「俺ならね、そもそも迎えに行くかどうかのときに『大好きなガラモンさん、どうかお願いです、迎えにきてください、貴方だけが頼りなんです、愛してますから迎えに来てください、お願いします、と言えば迎えに行く』と言うな」と抜かしてました。
 女子力の高過ぎる人なら簡単に言いますよ。まぁ、簡単に言われたって、言うこと聞くしかないんですけどね。
  
  
 テーマはドリフトしながら、同じ話題で明日にも続きます。