ふさわしくない&もったいない

  
 私はモテ童貞です。
 大野さんに言わせれば金城武であり、nanaに言わせれば桜井和寿葛山信吾に似ているというイケメソですから、まぁモテないことはないわけです。
 正直、nanaの言っているのは似ていると自分で思ったことはないのですが、それでも細身で、そこそこ長身で、胸筋も分厚く腹筋も割れていて、鼻筋が通っていて無駄に爽やかだから、それなりにはモテたりするのです。
 言葉を惜しまないし、優しいし気を遣うし頭も良いし、下ネタやエロトークも苦手ながら何とかこなすし、歌も上手いし、モテることもたまにはあるわけです。
  
 イケメソであることも見えなければ、見た目の爽やかさも伝わらず、痩身なルックスもスマートな振る舞いも歌の上手さもわからないはずのネットでも、何故かモテます。
 でも童貞です。
  
 これは非モテの童貞も同じ症状があるのですが、とにかく自分を卑下する言動を取りがちになるのです。
 「俺なんかに好きになられて、断るのも面倒臭いでしょうし、本当もうごめんなさい」みたいな。
 「告白なんかしてごめんなさい。断らせる手間をかけちゃって、嫌な気分ですよね。でも傷付けないように断ってくれた貴女を好きになって良かったです。俺の選択は間違ってなかった。やっぱり貴女は優しくて最高の女性だ。そんな女性に、こんな嫌な思いをさせちゃって本当にごめんなさい。身の程知らずに告白しちゃったせいで迷惑かけて。本当にごめんなさい。勘弁してつかーさい」
  
 これがもし、相手が自分のことを好きになってくれたとしても、雀百までわしゃ九十九まで、昔打った篠塚、習い性になった習性は抜けないものです。
 自分も好きで、相手も自分を好きでいてくれているにもかかわらず、次のような言葉を言わずにはいられないのです。
「私はあなたにふさわしくない
 あなたは私にはもったいない」
 全くその通り。
 もうね、好きだと思えば思うほど、口について出るわけですよ。
  
 相手が好きだから、相手の一番の幸せを考える。
 それなら、俺なんかよりもっと良い男と付き合ったほうが良くね?
  
 俺よりも金を持ってて、俺よりも優しくて、俺よりも頭も良くて、俺よりも将来性もあって、俺よりもハンサムな奴のほうが、どう考えても俺よりも良いじゃん。
 こんな自明のことを考え始めるのです。
 決して嫌いだから言っているのではありません。好き過ぎるから、相手のためを思ってという感情が暴走して言っているのです。
 しかも、暴走しすぎて、自分を犠牲にしても相手のためを思って言ってる俺ってカッチョイー! とか勘違いしています。
 でも、内心では腰が引けてます。自分に自信がないだけです。
  
 そもそも、本人は悲劇のヒロイズムでニヒルを気取っているつもりですが、相手の女性が否定してくれることを前提にした卑怯者の振る舞いでしかありません。
 その証拠に、もし相手の女性が「そうだね。私はあなたにはいくらなんでももったいないわ。良い男を見付けるわ」と言われたら、もう足腰は立ちません。とりあえずうんこを漏らす以外に他ありません。
 つまりここで言われる「私はあなたにふさわしくない。あなたは私にはもったいない」というのは、「ホントに俺でいいの? ホントに俺なんかで良いの?」であって、もうちょっと超訳するならば「ごめん、俺で。ホント俺なんかでゴメン」なのです。
 みっともない限りですが、言いたくて言ってるわけではなくて、言わずにはいられないのです。不安で仕方がなくて、気が付くと勝手に口に出してる。
  
 これを逆に考えて、自分がやられると想像すると、非常に鬱陶しいです。
 「私でいいの? 本当に私でいいの? あなたにはもっと素敵な子がいると思うの」
 すっげー大きなお世話なんですけど。
  
 普通に考えてこれ、「そうだよね。俺もね、お前よりもイイ女がいくらでもいるって思ってたんだよ。でも、お前にも悪いから言い出せなかったんだけど、お前からそう言ってもらえたなら、お言葉に甘えて、もっとイイ女を探すわ」とか言わないでしょ?
 こっちも交際するからには、それなりに相手を選んでこの人って決めているわけで、決めてからいつまでも「私でいいの?」とか言われても、「嫌だったらちゃんと逃げるから安心してくれ!」とか言いたくなります。
 やられたとしたら、鬱陶しいことこの上ないと知りつつも、それでもやってしまうんだよなぁ。どうていだもの。    320