ダイエット大作戦

  
 私は、成長期が止まってからの身体的スペックはずっと「身長178cm 体重57kg」というものでした。つまり、非常に痩せているわけです。
 何を食べても太らないのです。食べる量も普通ですし、間食も当たり前。一度に食べる量なんかは平均よりも大食いかもしれませんし、さらに不規則です。
 それでも、どんな不健康な生活をしていても太らない。羨ましい話です。
 食べ物の好き嫌いに関しても、苦手な食べ物は「天ぷら」ぐらいです。
 それも、天ぷらの味自体は好きなのですが、天ぷらの油分により、後で気分が悪くなるから、それが嫌だから食べないようにしている程度です。
 好きに食べて、不摂生をして、それで太らない体質なのです。
  
 それがあるとき、ホテルに泊まったときのことでした。
 いわゆるユニット形式ではなく、部屋のお風呂とトイレが別に区切られているタイプのホテルのため、お風呂から出て脱衣スペースで身体を拭いていたところ、まぁ御丁寧なことにそこには鏡があるんですね。
 ふと横を見ると、パタリロがいるではありませんか。
 いや、あそこまでではないんですが、なんか、エヴァ初号機のようなウェストの記憶しかなかったのですが、腹周りに何かあるんですよ。ゆとりが。
 今まで一度も太ったことなどなかったものですから、ちょっとショックを受けまして、全裸のまま慌てて鏡のない部屋のほうに移りまして、恐る恐る腹に肉を摘んでみたら、やはり幻なんかではなかったわけです。
 むにゅっとね。摘めるんですよ。脂のベルトが。
 でも体重はそんなに増えているわけでもないのですが、脂身は明らかにそこに存在している。それは紛れもない事実として目の前にあるのです。
  
 健康とかは気にしないんですよ。ほんと。見た目なんかも、ある程度以上のルックスがあるわけなんで、そんなに気にもしていなかったわけです。
 ただ、一生無縁だと思っていた「肥満」というものに御縁があったということがショックで、ちょっとしたPTSDと言いますか、もう、それからは逃れないとという気になりました。
 もともとやたらと痩せていたわけですから、貧相な身体に腹周りにだけ脂身があるという状況が嫌で、特に何も考えずに、筋トレを始めました。
 ダンベル、腕立て、腹筋を始めたのですが、筋力の衰えは想像以上でした。特に腹筋。
 腕立て伏せをしようとしたら、腕の筋肉の前に、腹筋のほうが先に限界が来て、腕を立てた状態で維持することが出来ず、十回過ぎぐらいで脱落しました。衰えてるね。
 しかし筋トレを始めて間もなく、みるみる腕は太くなり、胸の筋肉もそれなりに付いてきました。
 太い腕、厚い胸板、肥えた腹。あれ?
 腹筋もそれなりに数をこなすようになり、三十回以上は連続してやっているのに、腹筋が割れていないんですね。
 仕方がない。脂身の除去を始めましょう。
  
 筋トレでは脂肪は取れません。脂肪を取るには、有酸素運動です。
 私は歩くのは得意なので、ウォーキングを始めました。もともと不健康な私は、飯も喰わずに筋トレして歩くという無茶をしたためか、一週間ぐらいで消えて欲しかった腹周りの大部分が消えてなくなりました。今は腹筋もしっかり割れています。
 で、ウォーキングを始めたわけなんですが、歩くのは得意というか、普段から歩いているときには、驚異の競歩のスピードで歩いているので、何の問題もないのですが、その川沿いのウォーキングコースで歩いている私を追い抜いて走っていく人がいるわけです。川沿いを駆け足でマラソン人が行き過ぎるわけです。
 それが、ハゲたピザなオッサンだったのです。
 翌日、私は、ちょっと走ってみようかな? などという気を起こしてしまったわけです。
 走ってみたところ、もうたったの100mぐらいでヤバいんですよ。200mぐらいでかなりきつくて、300mでほうほうの態になって、あとはもう、無理矢理に750mを走りきったのですが、約四分。吐きそうになって死ぬかと思いました。
 昔、一体全体、どうやって1500m走を六分かからずに走っていたのか、どうにも理解が出来ないのです。これは相対性理論が関係あるのでしょうか?
  
 しかも、走ってみて、足の筋肉の限界とか、心が折れる以前に、呼吸がどうにもならなかったのです。
 心肺機能の壊滅です。はっきり言って、想像以上でした。ハゲたピザなオッサンを舐めてました。どうもすみませんでした。