ファザコン女とマザコン男

  
 男はよく女性に「お父さんと仲は良いの?」と質問し、女性が「うん、ウチは仲良いよ」と答えると、非常に満足そうにしていることがある。何しろ私がそうだ。お父さんと仲が良いと言われると、三割増しぐらい魅力になる。当社比で。
 逆を考える場合、まず有り得ない。
 まず女性が男性の「お母様とは仲は良いの?」などとは聞かないし、もし仲が良かったとしても「うん、俺、お袋と凄く仲良いんだよ」などとはストレートに答えないだろうし、もしそう答えられたとしても、それを聞いた女の人が満足気に頷くということはないだろう。
 つまりは、マザコンは女性に嫌われるが、ファザコンは男性に好かれる、ということである。百歩譲って、ファザコンの女性を嫌う男性はいるかもしれないが、少なくない男性はファザコンの、というか、お父さんと仲の良い女性を好意的に評価する。
 女性は飲み会とかでお父さんとの仲を聞かれたことがある人も少なくないだろうし、男の人も胸に手を当てて思い返せば聞いている人も多いんじゃないかな。私の周りだけか? 特殊なのか? ともかく、何故にそんな違いが生まれるのか、というのは、少し思いを巡らせて見るとすぐに回答らしきものは見つかる。
 もちろん、男性が、母親離れしていないことを恥ずかしいこととする価値観が、男性と女性の双方に共通認識として存在し、そしてまた、女性というのは男性に守られるべきだというジェンダーが存在するので、母親に守ってもらう男性が認められなくて、父親に守ってもらう女性は認められる、というのは当然大きく影響するわけですが、それだけでは積極的に、父親と仲の悪い子よりも父親と仲の良い子が好まれる、という私の周辺で確認されている現状は説明しきれません。
 では、何故か。
 やはり私の周りにも父親が大っ嫌いだという女の子はいて、そういう子は、お父さんの服と一緒に自分の服を洗濯して欲しくないとか、生理的に嫌悪したりするタイプとかいて、中には勝負下着の紐パンをお父さんが干してたという強者もいましたが、触られるのも嫌だという。
 小中学生の頃は「うざい」とか「うるさい」とかなんですが、もう大学のあたりからは、力関係がかなりイーブンになってきているので、うざいから、うるさいから、という理由よりも、きもい、きたないなどの、生理的理由が多くなってくるようです。
 で、お父さんと仲が良いとこいうことは円満な家庭が多く、円満な家庭というのは、比較的にDQNを生み出しにくいという傾向もあるかもしれないが、おそらく、そんなことを考えてお父さんと仲が良いかどうかを確認して満足する男性というのもいないだろう。もっと直接的に身につまされる部分から質問に及び、そして回答に安堵して満足しているのではなかろうか。
  
 結婚後、遠からず男性というのは「お父さん」のポジションになるわけで、お父さんは娘よりも先に、奥さんから疎ましがられるという悲哀に富んだ存在であるわけです。
 「お父さんが嫌い」という女の子は、結婚した後に加齢臭が漂い始める旦那さんに対して、早々に嫌悪感を表明し始めるのではないか、という傾向が考えられるわけです。自分だってオバサンになるわけですが、オバサンは強いですからね。
 そういうこともあって、男性は、好きになるタイプの女性というイメージの中に、将来の家庭の中での自分のポジションを考慮に入れて、「お父さんと仲良くできる」=「自分と末永く仲良くできる」という投影をしているのではなかろうか。などと思うわけです。
 簡単に言うと、お父さんと仲良くできるというのは、家庭的であると言えるかもしれないし、更に言うなれば、母親的であると言えるかも知れず、つまりそれは、お父さんと仲が良いかどうか聞きたがる男性というのは、マザコンなのかもしれない。