異性に言われた一番凹んだ言葉コンテスト

  
 私もこのコンテストに参加したいと思います。
  
 私が実際に交流を持ったことがある女性の中で、最も可愛いというか美人なのは、今のところ岡本さんという女性です。同じ会社の人でした。
 この岡本さん、落ち着いている山本梓をイメージしてもらえばいいと思います。
 とにかく圧倒される綺麗さんでした。完全に気おされる完璧なる美人でした。
 目を見たら石にされるんじゃないか・・・! ビビって舞台に上がる前から「ごめんなさい私の負けです」と白旗を挙げてしまうようなタイプで、私は昔から美人に偏見を持っていますから、苦手意識をバリバリ持っていました。
 苦手意識が強すぎ、あんだけ美人で性格が良いはずがない、という感じで「俺を見ないでください」とばかりに、業務としての必要最低限のかかわりだけでした。
 まさしく勝手にイメージして、勝手に苦手意識を持って、それが行き過ぎて被害妄想で嫌悪に近い感情を持っていました。
  
 で、私はここの最後で紹介しているベティちゃんと仲良かったわけですが、そのベティちゃんと岡本さんが仲が良かったのです。
 私は、ベティちゃんに「どうも岡本さんは苦手なんだよね」という話をしていたのですが、ベティちゃんは「美人だからそういうイメージかもしれないけど、凄く気さくで本当に良い人だよ」というわけですよ。
 ふーん、と思いながらも、私はずっと苦手意識を持っていて、ベティちゃんと岡本さんと三人のときでも、ベティちゃん経由じゃないと腰が引けているような状況でした。
  
 ところがある日、ちょっと嫌系な業務を含む仕事で、私と岡本さんがセットで当たらなくてはならなくなりました。
 微妙に嫌系の業務なので、その面倒臭い嫌系な部分については、私がやらなければいけないんだろうな、などと覚悟していました。
 体力仕事系の後片付けがあったからです。それも人力手作業の油汚れの洗い物という、極めてブルーカラーチックな作業です。
 私は当然のつもりで一人で片付けの作業に入っていたら、岡本さんもある意味では当たり前ではあるのですが、私にとっては意外なことに後片付けに来たのでした。しかもジャージーに軍手で。
 こんなにカワイイジャージー姿も初めてでしたが、いつも綺麗に着飾っている岡本さんの作業着スタイルに、とりあえずまずカマされました。
 「ああ、俺がやるからいいよ」と早くも敗北宣言をしたわけですが、「えー、何を言ってるの」とか言いながら、汚れ作業を始めます。
 岡本さんは、たまにお茶目な失敗をしながら「ああ、粗相をしでかしてしまった」などと言いながら一緒に作業をし、手を動かしながら気さくに話しかけてきて、もうね、惚れないわけがない状況なんですよ。さすがに綺麗過ぎて惚れませんでしたが、印象は完全に変わりました。
 これはすごい。この人に生まれたら幸せだろうなぁ。
 勝手に偏見でもって冷酷なイメージをしていてごめんなさい。
 別次元の異常な美人で、頭も良く、しかも気が利いて控えめで人柄が良いという、文句の付け所がなくて惚れるに惚れられない女性でしたが、それでもその仕事以降は多少仲良くはなりました。
  
 それから飲み会の話があったので、私が「岡本さんも誘ってみよう」というと、みんなから「ああ、あの人は誘っても来ないよ」という返答でした。確かに今まで来ていませんでした。
 でまぁ、一応は私が誘ってみたのですが、岡本さんは「あー、いいねー。でも今日は駄目なんだ。ごめーん。すごい残念。ホントはそっちに行きたいんだけどなぁ。でも絶対次の機会は行くからまた誘ってね」と断りました。
 みんな「あの人、毎回あれで来たためしがないんだよね」と言いながらも、その社交辞令の上手さに腹も立ちませんでした。お見事。
 岡本さんは、女子力にしても最強のものを持っていました。
  
 私は、岡本さんが大の日本酒好きだと聞いて、下戸の私は岡本さんを誘ったことがありました。
 「今度、呑み比べをしよう。負けたほうが全額を払う。サシで勝負だ!」
 早い話がこっちの払いで呑み放題のデートに誘ったわけです。本当に来られたら、どうしていいのかわからないぐらい緊張しそうですが。
 「あー、いいの? 絶対負けないよ。楽しみー。いまさら撤回とか駄目だからね」
 それ以降、二人だけで顔を合わせるときは、お互いに絶対に具体的な日にちを決めずに、お互いがお互いに「約束忘れてないよね?」「私、絶対負けないよ」と言いながら、結局行かずに終わりましたが。
 行くことはないだろうなと思いつつ、この人とデートの約束をしている、というのが嬉しかったりして。
  
 ベティちゃんの誕生日パーティを何故か私の部屋でやることになり、私は岡本さんに声をかけました。
 岡本さんは「その日、用事があるんだけど、用事が終わってから参加できるようなら参加する」と、これまたいつも通りの社交辞令返事が来ました。
 ベティちゃんの誕生日パーティは始まり、私がベティちゃんと話していると、ちょっと酒の入ったベティちゃんが言い出しました。
 「岡本さんは、完璧すぎて嫌になるね。今日だって来てくれないけど、それで恨まれたりしないポジションで、上手く振舞ってるでしょ」
 「それ恨んでるんじゃないの?」
 酔っ払いに対してもデリカシーに定評のある瀧澤です。
 「なんかさ、あんな完璧に何でもそつなくこなされるとさ、同じ女としてさ、嫌になるじゃん」
 「大丈夫だよ。誰も『同じ女』のカテゴリーにくくってないから」
 デリカシー炸裂です。
 「もうさ、完璧な女って嫌だよね。あーゆーのがイイオンナの基準にされたら、こっちがたまらん」
  
 そんなことを言っていると、私の部屋のインターホンが鳴り、まさかの本当に岡本さんが現れました。
 「ギリギリ間に合ったー」
 時計は十一時五十五分。岡本さんは紙袋に誕生日プレゼントを入れて、ベティちゃんに駆け寄りました。
 ベティちゃんも感極まりながら岡本さんとハグをしています。さっきまで愚痴ってたくせにー。
  
 そして、飲み会は仕切り直しで、宴会担当がコンパ乗りのゲームを始めました。そのゲームの中で、こういうものがありました。
 質問の書かれているくじを引いて、引いた人がその質問に答えなくてはならない。周りの人はその答えを予想して、当てた人にポイントが入る、というゲームです。
 岡本さんが回答者に回ってきました。岡本さんの引いた質問は次のものでした。
 あなたの下着が盗まれた。犯人は誰?
 これ、名前を言われたら嫌だなぁと思っていたところ、無事に岡本さんは別の人の名前を言いました。ベティちゃんは「そりゃ瀧澤さんでしょ」とか言っていましたが、ベティちゃんには何を言われてても気にもなりません。
  
 楽しいなりに苦痛も伴うコンパノリのゲームも終わり、それぞれ適当に座って飲んでいると、岡本さんが私の隣に移ってきて飲み始めました。
 酒豪の岡本さんは結構飲んでいるようで、顔もほんのり桜色です。
 顔はいいんですよ。すごい美人ですがそれはいい。その日の服が、大きく胸元が開いた服を着ているんですよ。大きく胸元が開いていて、桜色に染まっているんです。もうね、気になってしょうがない。またスタイルもいいんだ、これが。
 胸もいい感じに大きくて、ふくらみも谷間ものぞいているような大きく開いた服に、綺麗な肌の桜色。
 私は岡本さんと会話をしながらも、とにかく胸元が気になって、ちょろちょろちょろちょろ胸元をチェックしていました。もう私の意思とは関係ない。
 こんな綺麗な女性の胸の谷間は二度と見られないかもしれないから、とにかくチャンスだから見とけ。でも覚られるな。難しいミッションをこなしていました。
 会話をなんとなくこなしながら、気持ちはミッションに集中しています。
  
 しかし、一瞬、会話に空白が生まれました。
 あ、間を繋ごう。
 私が急場凌ぎに話題にしたのは、先ほどのコンパネタでした。
 「さっきの質問ゲーム、俺の名前を言われなくて良かったよ」
 「あー、瀧澤さん、私の下着盗みそう」
  
 存在を忘れていただけなんかい。
 直前まで胸を視姦しまくっていた手前、何も言い返せませんでした。
 私はどういう顔をして良いかわかりませんでした。
 「おー、記念に一枚もらえる?」みたいな気の利いた一言でも返せればよかったのですが。 
  
 「あー、私の下着盗みそう」
 基本的にこういうことを言わない、気の回る人だっただけに、酒がかなり入っていたからとはいえ、ショックでした。
 この言葉を噛み締めながら、パーティが終わってみんなが帰った後の部屋での寂寥感は何にたとえよう。
  
 この岡本さん、エステティシャンになりたいと言い出し、何故か突然タイに留学に行ってしまいました。