媚びる男 媚びる社員
やたらと媚びる男がいる。
スィーツの美味しい店とかをチェックして知識を蓄えているから、そんなことに興味があるのかと思ったら、全く興味など無いという。
なんで興味が無いのにいちいち調べるのかと聞いたら、女の子と共通の話題を持つためだという。
若い女の子が興味を持っているであろう話題を、自分が興味もないのに女の子と話をするために調べるなんて、男を安売りする行為だし、女に媚び過ぎていないか。
私はウィンタースポーツはやらない。寒いし金はかかるし慣れるまで身体が痛い。
ウィンタースポーツをやる奴に話を聞くと、楽しいし女の子と一緒に遊びに行く口実になるよ、という。それがなければわざわざやらないよ、とまで言い切った。これはさすがに特別に極端な例だろう。
だがウィンタースポーツはなかなか女の子が行くには足に困るし、一緒に遊びに行くいい口実にはなるだろう。
行った先でも誘った女の子に気を遣い、飲み物を買ってあげたり、女の子が喜ぶような会話を提供したり、サービス精神旺盛におもてなしをしたりしている。
女にサービスを要求されて、それに応えることでモテている、自分も楽しんでいると勘違いしているが、やはりそれは女にたかられているのだ。
要求されてそれで答えることでしかコミュニケーションが取れず、女もまたそういうサービスの提供を受けることでしかコミュニケーションが取れない。
そういう女に媚びる真似をしたくない私のような男にとって、そういう男は迷惑である。
私に対しても、ほとんどの女は、そういったサービスをする男を期待するからだ。男にとって、そういうサービスをする男は敵である。
例えば、何年も前にお袋に買ってもらった服を数着で着まわしている男は、女に「そのファッション、なんとかならないの?」と言われる。
服などは自分が気に入ったものを着ればいいのであって、異性にモテるために着るのではない。着たいものを着ればいいのだ。
そうは言ってもそれでも「服装に気を遣えない男は云々」と非難される。気を遣うというのは清潔さではない。他者の目を気にしろ、という話だ。結局はサービスを要求している。
スェットで歩いていると、男からも「寝巻きか? あれは酷いよな」という嘲笑をされるが、そういう男は女からの要求に従うことによって、女からの歓心を得ようとする。男を裏切った男の敵である。
男に対して、そういう要求はしていないという女性もいるだろうが、それは違う。違うというか、嘘だ。嘘吐きだ。こういうことをいうのはいわゆる「モテ女」の王道を歩まない女性に多く見受けられるが、そういう女性だって、ファッションセンスに欠ける男の服を笑うのだ。騙されていはいけない。
例えば、「私は男を安売りすることなく生きてきました。おかげで童貞のまま五十歳です。童貞一筋半世紀」という未使用性器の男がいて、それに対して侮蔑の心なしに「それは立派な心がけですね」などと言うだろうか? いや言うまい。
「うわ、キモ! そんなだから童貞なんだよ」というに決まっているのです。全ての女は内心でサービスを望んでいるのです。
例えば、会社の中間管理職で、ある意味で素晴らしい身のこなしをしている奴がいます。
上司に対しては忠実で有能な部下を演じ、部下に対しては尊敬される頼りがいのある上司を演じる。
上司に対しては思ってもいないお世辞でご機嫌を取り、興味もないゴルフにも付き合って、上司が期待している以上の仕事をして、上司に気に入られようとしています。
部下に対しても偉ぶらずに、指示を出すだけではなく、一緒になって事に当たるような姿勢を見せ、部下が悩んでいると直接は自分とは関係もない相談にまで乗ってやり、気に入られようとしています。
「あるべき部下の立場」や「あるべき上司の立場」という幻想に踊らされて、自分だってその状況が辛いにもかかわらず、相手の期待する幻想に忠実にあろうとサービスをする。
そういうサービス精神の旺盛な中間管理職は、上司からも重宝されてたかられて、部下からも頼られてたかられる。
私としては、そういうのは疲れるからやりたくないのだが、それを要求してくる人がいる。
仕事の部分は給与分はきちんとやっても、おべっかや接待ゴルフ、悩み相談や自分の振られた以外の仕事など、給料に関係のない部分まで含めて比較される。
サービス精神が旺盛な中間管理職は、他の中間管理職の迷惑である。
私は、人間関係を円滑にする努力ができる人間を尊敬する。それは非常に重要なことであるし、自分がそうしてもらうことは概ねうれしいからだ。
だから私は、自分自身がスィーツを調べたりウィンタースポーツをやったりファッションに気を遣ったりできないからといって、そうしている男を批判しようとは思えない。
彼らの行為が直接的に私に恩恵を与えることはないけれども、世の中の仕組みとして、他者が喜ぶという幻想を忠実にこなすことで、他者が喜ぶことが多いということを認めているからだ。
もちろん、それによって本人が苦しむことはあるだろうし、逆にやりすぎちゃって、まわりが引いちゃって本末転倒になるケースもあるでしょう。
しかしだからといって、多数の他者が喜ぶであろう(幻想)振る舞いをする人間のほうが世の中を円滑にし、他者を幸せにする。だから、しないと居直る人間よりも、数等立派だと言わなくてはならないと考える。
気を遣えない、媚びることもできないような童貞男や中間管理職が高い評価を得ないのは納得できる話だが、男に媚びる女が女から非難されるのは、納得できない。非難する女だって、実は男に媚びることをし、女を利用しているにもかかわらずに。
「男性性欲」の経済から外れた「本当の女」など存在しないのです。
私個人的には、そういう媚びた男は嫌いだし、媚びる女には引く部分もあるけれども、それでも、利己的な目的であれ、他者に気持ちのいい振る舞いをしようとする姿勢を批判することなど、出来やしないし、してはいけないと思う。
自分が、他者に気持ちの良い振る舞いをし切れていないという自覚を持っているのだから。