ごめんあそばせ

  
 先日、自宅の近所を車で走っていた。
 私の家の近所は古くからの土着民が多く、区画整理の手も及んでいない昔ながらの路地が多く、車がすれ違うこともできないような細い道がある。
 ちゃちゃっと通り抜けようとしたところ、対面から水色のシルバーメタリックの車が来た。
 運転席に女性が一人。年の頃は二十歳になってないかなったぐらいか。触尻エリカのようなスベスベ肌に綺麗だけれどキツイ顔、柴咲コウのような強烈な目がこちらを見ていた。
 私は車の運転が苦手で嫌いなので、バックなどはしたくないのだが、あの目に見据えられたら下がるしかない。
 私は苦笑いでにやっと笑うと、おもむろに来た道をバックで下がって行った。
 他所の駐車場を待避所に使い対向車をやり過ごすと、水色のシルバーメタリックの運転席では、触尻エリカのように勝ち誇ったすまし顔でこちらを一瞥し、軽く左手を上げると通り抜けていった。
 口は開いていなかったが、あれは明らかに「ごめんあそばせ」と言っていた。いっこく堂のように言っていた。
  
 とにかく冷たい綺麗さで、全く好みでもなかった。かなり綺麗ではあったが、ずっともっと究極に綺麗な人の写真を見ているので、そのときの一瞬だけでそれからすっかり忘れていた。
 しかし駅前でまた会った。今度はどちらも歩きだ。
 相変わらず冷たいキツイ顔だが、なかなか綺麗だ。すごい目力。あのときの車の女に間違いない。
 女は私の前を歩き始めた。
 何故か妙にケツを振りながら歩く。あひるみたいだ。振尻エリカ。振りすぎが気になってよく見たら、やけに足が短いと言うことに気が付いた。短足に気が付くと、きつい美人が若干親しみやすく思えた。
 親しみを持った瞬間、そのクールビューティーは、私の前を歩いていたこれまたイケメンに話しかけ、並んで歩き始めた。恋人か。
 美人はTシャツの裾から手を突っ込んで背中を掻いた。ウェスト周りが見える。隣の彼氏も注意しろよ、みっともない。
  
 クールビューティーは、ベタベタくっつくこともなく、沢尻エリカ風に生意気な感じで男と話しながら、ケツを振って歩いている。
 二人は私の家の近所まで歩いていく。
 あれ? 私の家の周囲は、私の親類一族が住み着いていて、それ以外はいくらか土地を分譲した人たちがいるだけで、なんでこっちに来るんだろう?
 その美女とイケメンの二人は、私の祖父の弟に当たる元市会議員の大叔父(故人)の家に入っていった。なんですと? 大叔父が死んだから誰かに貸してるのか?
  
 お袋に聞いたところによると、大叔父が倒れて、その看護で長女に当たる娘さん*1が実家に戻ったところ、それを理由に不仲になり、大叔父が亡くなってからも、そのまま居ついているらしい。
 そしてその長女と長男があのクールビューティとイケメンらしい。姉弟かよ。
 それは兎も角として、だ。娘が親の面倒を看に実家に戻ると、それを嫌がって不仲になって別居って、そんなことが起こるのか?
 おそらく別の要因があるとしか思えないわけだが、大きなきっかけにはなったわけだ。
  
 核家族化が進んでくると、相手の家族との友好な関係を築くことを苦手とする、というか、築くことすらしたくない「進んでいる」個人主義者が生まれたりするのだろうか。
 老人介護も社会問題ではあるのだが、結婚が、建前通りに着実に両性の合意でのみ行われるようになっていくのかね。

*1:大叔父の子供は三人姉妹で男の子供はいない