司馬遼太郎メソッド
司馬遼太郎という国民的大作家がいました。
シバリョーは、支那の歴史的大作家である司馬遷に遥かに及ばない、ということで司馬遼太郎というペンネームをつけたと言うことが有名です。
シバリョーは大衆作家であり、膨大な資料から独特の筆才で、主に歴史小説を書き、そしてそれはベラボーに面白い。
そんなシバリョーは、しばしば、このような筆技を使います。
例えば、歴史上の人物、大山巌の、超大物エピソードを披露します。
大山巌は、もの凄く豪胆な人物で、例えば才能のある部下がいると、その部下に自由に才能を発揮するように言い、そして、そのかかる全ての責任は大山が取る、という人の上に立つに相応しい、といった面白エピソードを開陳します。
部下に自由にやらせた上で、責任は全部自分がかぶるなんて、こりゃ大物と言わざるを得ません。
しかし、これでは単なる大物です。シバリョーの力量はこっからです。
この大山巌には、西郷従道という従兄弟がいます。
シバリョーは言います。この従道というのは、とんでもない大人物であり、あの大山巌をもってしても、従道に比べれば小さかった。
従道は、自分の裁量権の範囲内の全ての責任を負ってしまう大山すらも超越し、国のためには裁量権などという枠組みを超えて、もっと大きなことを成し遂げる、裁量権がなかろうが国のためになるならば何故やらないことがあろうや、という、常識の枠組みを超えた超大人物として描かれるのです。
常識で考えられうる最大の大物を「大山」として出すことによって、それをさらに超える人物として、常識を超えた「従道」の大物振りを際立たせるという手法です。
ここでおさまるシバリョーではアリマセン。
この従道には隆盛と言う兄がいます。西郷隆盛です。
シバリョーは従道に言わせます。「さすがの私も、兄の隆盛の足元には到底及びません」
もうインフレのしすぎです。
週刊少年ジャンプか。
本当は最初から、西郷隆盛が如何に大物であったのかを書きたいわけです。
しかし、西郷の大物エピソードをいくら積み上げても、大きさにはおのずと限界があります。
そして、常識的な最大の大物大山巌を出し、これ以上ないぐらいの大物であると認知させた上で、それよりも凄いと西郷従道を出し、さらにはそれすらも足元に及ばないと、本丸の西郷隆盛を出す。
もはやその大きさは無限です。
この司馬遼太郎メソッドを上手く利用したブラジル人がいました。
総合格闘技と言うジャンルのきっかけとなった「UFC」という大会があります。
初めて「なんでもあり=バーリトゥード」というルールなきルールで争われた大会において、小柄で無名なホイス・グレイシーというブラジル人が、自分よりも遥かに大きな相手を、あるいは優勝候補と目されていたケン・シャムロックを、平気で反則する気違いジェラルド・ゴルドーを、あっという間に撃破して優勝してしまった。
とにかくなんかしらんが、このホイス・グレイシーという奴は異常に強い。小さいのに無茶苦茶強い。
そういうディープなインパクトを残したホイス・グレイシーは、試合後にこう言った。
「兄貴は俺の十倍強い」
お前は西郷従道か。
この「兄貴」こそ、四百戦以上無敗といわれているヒクソン・グレイシーです。総合格闘技界の吉田沙保里と呼ばれています。
ヒクソンは結局、勝てそうな日本人とだけ試合をしながら、実質的にはもう隠居生活に入っています。
一応は無敗伝説のまま、お隠れになったわけです。
ヒクソン・グレイシーこそ、司馬遼太郎メソッドの体現者と言えるでしょう。