三角関係が崩れるとき

  
 三日前に君から凄く久しぶりの電話があって、大学を卒業してから数回ほど会って以来だから、もう三年ぶりぐらいになるのかな。
 急な呼び出しだったから驚いたんだけど、オープンカフェに座り、僕を見つけて手を振る君は変わらずに美しくて、いい感じに大人びてまた魅力が増したように見える。
 僕は彼女の前に座りカプチーノを頼む。「久しぶり。また綺麗になったんじゃない? 学生時代よりもしっかりして見えるからさらにいい女になったよ」
 「あはは。苦労してるから老けたと言いたいんでしょ?」 君の口元からこぼれる歯並びのいい白い歯は、学生時代から君のチャームポイントだったな。
 「苦労してるの?」
 「んー、そうでもないよ。やりたい仕事も少しづつ任せてもらえるようになったし、環境は凄く良い」 君は昔からできる女性だったからな。
 「あー、そうだ。あいつにも声をかけようかと思ってたんだけど、何しろ急なことだったからかけられなかったよ」
 「あぁ、うん。いいよ。それは」
  
 学生時代、僕と君とあいつはいつも三人で一緒にいた。
 君は他の男からも人気があったし、女の友達だって学校に大勢いたのに、何故か不思議と、僕とあいつを見つけるといつも僕らのところに来て、一緒にカフェテリアでお茶を飲んだり、校庭のベンチで話し込んだりしていた。
 僕はあいつとはまだ月に一度ぐらいのペースで会っていて、酔っ払っては学生時代の思い出話に花を咲かせるよ。
 多摩川の上流でたった三人でバーベキューをしてさ、僕に隠れてあいつが君に告白して、帰りの車で僕が運転して、助手席であいつは落ち込んで、君は後部座席で気まずそうに。あのときの話をするとあいつ未だに平謝りでさ。
 「あいつ、君に会いたがってたからさ。僕だけ会ったと知ったら何されるかわからないよ」
 「それなんだけどさ、私ね、今度、会社の人と結婚することになったんだ。だから、その報告を……」
 「あぁ、そう、なんだ。良かったじゃん。おめでとう」
 「うん、ありがとう」
 君は少し恥ずかしそうに笑って見せた。
  
 「で、どんな人なの?」
 君は、少し照れながら彼の話を始めた。初夏の風に吹かれながら、君は長く黒い髪をはためかせ、幸せいっぱいに彼の話をする。君はきらめくような笑顔でプロポーズされたときのことを話す。
 幸せそうな君を見るのは僕も嬉しいんだけど、君を祝福しながら、僕はどうしてもあいつのことが心に引っかかる。
 あいつは今でもずっと君のことを好きなんだよ。
 いつも会うと最後はその話ばかりなんだ。何年も会ってないのに、未だに君のことを思い続けている。
 でも仕方がないよね。こればっかりはどうにもならない。
 あいつは心の底から素直には君を祝うことはできないと思う。
 でも仲良し三人組だったんだ。だったら、僕だけでも、君の門出を心から祝福しよう。
 君には幸せが似合ってる。おめでとう。本当に良かった。
  
 「あいつには僕から話しておくから」
 「あー、うん。ありがとう。でも……」
 「いや、大丈夫。僕からちゃんと、上手く話しておくよ」
 「そう……」
 「そのほうが、うん、いいと思うんだ」
 「うん。そっか。わかった。じゃあ、お願いするね」
 「うん、心配しないで。これから幸せになる準備が忙しいんだから頑張って」
  
 嬉しそうに手を振った君を見送りながら、僕はあいつになんて話そうかを考えていた。
 これであいつも君のことをすっぱり諦めて、僕に振り向いてくれればいいんだけど。